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読者の皆様はじめまして。吾(われ)は現世最高神であられるフェンシエンス・ヘリオスの直属部下にして補佐を務める、唄片(うたかた)と申す者です。
一部の巷では終焉の死神やら終焉を運ぶ外道やら呼ばれている吾ですが、これでもフェンシエンス様の補佐が主な仕事でございます。
決して一狩りならぬ人狩りしようぜが仕事な訳ではないことを念のため申し上げておきます。
…まあ、そんな吾の身の上話はさておいて。
今現在の吾はフェンシエンス様と共にヘル嬢を招き、お茶会を催しております。
無論、只のお茶会ではありません。彼らが音楽世界へ派遣した弟子と部下の動向を報告し合う場でもあるのです。
しかし…ひかりを音楽世界へ落としてからというもの、フェンシエンス様はどこか不機嫌そうでした。
というか、完全に不機嫌な表情をしておられました。
その不機嫌なオーラはひかりが護衛の者と対面した時に最高潮に達するものとなり……まあ理由はおそらくあれでしょう。
「フェンシエンス様」
「何だ」
「彼(ダスク)をひかりの護衛につけたこと、些か後悔なさっていますよね」
「…何のことだ」
はぐらかしました。どうやら当たりのようです。
フェンシエンス様はひかりのことを大層可愛がっておりましたからね。
弟子としてなのか、はたまた異性としてなのかは神のみぞ知ることなのですが。現世最高神だけに。
と、今まで紅茶を優雅に飲んでいたヘル嬢が話に入ってきました。
「あら唄片、あの子の護衛にダスクを採用したの?」
「はい。彼はひかりの苦手な遠距離戦闘をカバー出来る存在です。それにひかりのことを心から信頼していますからね。道中では良き話し相手にもな…」
「唄片、紅茶」
「かしこまりました、フェンシエンス様」
言葉を遮るかのようにフェンシエンス様が差し出してきた空のカップに紅茶を注いだ吾は、ひとまず話題を変えることに致します。
「そういえばそちらは新米の諜報員を派遣されたそうですね」
「ええ。本当は胡飲酒でも良かったのだけれど…この際だから新米のハーモニアにあの世界の情勢を学んでもらおうと思ったの」
そう言ったヘル嬢は、神秘的な微笑を浮かべておりました。
「ほら、可愛い子には旅をさせろと言うでしょう」
「旅どころか、些か厄介な事件が起きた時期に派遣したような気も致しますが」
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