File.05 終焉のお兄さんのぼやき

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   今の音楽世界では、妙なモノが度々目撃されるという噂があるようです。  音楽世界には住人の他にも様々な動物がいるのですが、その中にもいないとされている筈の“血のような紅い蝶”。  そしてそれが目撃された場所の付近では、傷害事件や強盗事件など凶悪な犯罪が多発しているとの報告もされています。  此処まで来ると紅い蝶とそれらの事柄に関連性が皆無だとは到底言えません。  それらを調査する必要があると判断したフェンシエンス様は、“ちょっとした様子見”という名目でひかりを音楽世界へ向かわせたのです。  まあ…少々強引なやり方だったような気も致しますが。 「貴方達こそ、音楽世界の現状を調査するためにひかりを向かわせたのではなくて?」 「…分かってたのか」 「分かるわよ。だってあの子は私の“現世”だもの」  しかし、フェンシエンス様の思惑はヘル嬢に全て見通されていたようです。  まあこればかりは致仕方ありません。ヘル嬢はある意味ではひかりと同一人物と言える方ですから。  肩をすくめていたフェンシエンス様でしたが、ふと思い当たる節でもあるかのような表情をしました。 「だが…血のような紅い蝶か。まるで幻想世界ジャングリラに存在していた月光蝶と対極の“暗黒蝶”を思い出すな」 「確かにおりましたね。しかしそれは、今となってはお伽話の中でしか存在しない筈では」  そう。あの蝶は今となっては只のお伽話に存在する幻想的創作動物に過ぎません。  何たって千年を遥かに超える昔、お伽話の通りに根絶されているとお聞きしていますから。  そもそもそれ以前に暗黒蝶は音楽世界とは全く違う別次元の世界に存在するもの。  世界と世界の境を越え、音楽世界にまで現れるとは考えにくいでしょう。 「とにかく、今はあの子達の報告を待つしかないわ。次に取るべき行動はそれから考えましょう」 「…そうするしかないな。唄片、近々ひかりに連絡を取ってくれ。その時にこのことを話す」 「承知致しました」  どうやら此方も、忙しくなりそうですね。
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