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小さな金属音、そして鈍音。
ひかりが十手を手に漆黒マントの脇を過ぎ去った直後、その漆黒マントは崩れ落ちるようにして倒れた。
「なっ……何が起きた!?」
信じられないことが起きた。
否、周囲の漆黒マントは何が起きたか分からなかった。
ひかりが突き出した十手は、彼女へ真っ先に斬りかかっていった仲間の刀を挟んだかのように見えたのは覚えている。
しかしその動作は瞬きをする間もなく見失い――気がつけば刀の切っ先はあらぬ方向へ逸らされた仲間の鳩尾に、ひかりが十手の柄を叩き込んでいたのである。
「…何が起こったの?」
ダスクに守られながら状況を見ていた少女は目をぱちくりとさせ、驚いた様子で言葉をもらす。
少女の言葉を耳にして振り向いたダスクは、爽やかな微笑みを浮かべながら答えた。
「あれがひかりの得意とする闘い方なのですよ」
『神双二閃流』――瞬時の状況に応じて武器の持ち方を変えながら相手の剣筋・軌道の利点・不点、その剣筋や軌道を此方の攻撃に応用・活用する武道の“柔”をベースとした対剣士用殺陣流派。
通常の剣術攻撃とは異なり法則性がない変速的かつ変則的な動きの流れや軌道から繰り出す攻撃が特徴的で、それにより瞬間的に光速に匹敵する速さの軌道を描いたり、時に有り得ない軌道から剣技が繰り出されることもあるとか。
ちなみに今ひかりが行ったのはその初歩的な技。
刀の軌道を読み、それに合わせて武器を振るうことで刀の鍔まで滑らせるように軌道を逸らしてからすぐさま手首を返すようにして十手を鳩尾へ叩き込んだ、というわけである。
「まずは一人。で、どうする追っ手さん。“御命令”を続行するの?」
「ぐっ…」
手始めに一人の漆黒マントを沈め、ひかりは不敵に微笑を浮かべると残りの漆黒マントを見据える。
鷹が獲物に狙いを定めるかのような鋭い眼差しに、漆黒マント達は思わず後退した。
この娘、只の旅人ではない。
自分達より遥かに卓越した戦闘能力と経験を兼ね備えた武人だ――
ひかりを見た漆黒マント達はそう直感したが、こちらから闘いをふっかけておいて今更“撤退”など出来るわけがなかった。
「た…戯けたことを言うな!」
リーダー格の漆黒マントが叫ぶと同時に他の漆黒マント達も次々にひかりへ襲いかかるが、みな一太刀も浴びせられずに彼女によって沈められていった。
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