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最初の漆黒マントを含め、ひかりは計五人を地へ沈め終えた。
しかし彼女自身は怪我一つしていないどころか、息切れ一つしていない。
対して、残る漆黒マントの数はリーダー格を含めた五人。
数から見れば漆黒マントの方が有利に見えるが、実際は彼らの方が劣勢なのは明白であった。
「まだ、やる?」
「くっ…!」
なんたって十人いた漆黒マントを、短時間でここまでの人数に減らしたのはひかりなのだから。
半ば呆れた様子で小さくため息をついたひかりに、悔しそうな表情でしばらく押し黙っていた漆黒マント達であったが
「しかしここは致仕方ない…撤退だ、生き残っている者は気絶した者を運んで帰還せよ!」
「御意!」
これ以上ひかりを相手にすると全滅を招かねないと判断したのだろうか。
リーダー格の漆黒マントの言葉を聞いた他の漆黒マント達は、気絶した仲間を担ぐとその場から逃げ出した。
脱兎の如く撤退していった漆黒マント達の背を見送ったひかりに、ダスクが声をかける。
「いやはや、お見事でしたよー。多勢に無勢でもあれだけ立ち回れるとは…流石はひかりです」
「私としちゃ、あんまり乗り気じゃなかったけどね。でも引き渡さなくて正解だったよ」
ひかりはそう言って少女の方へ向き直ると、微笑みを浮かべた。
「あれだけ脅しをかけりゃ、しばらくは追って来ない筈だよ。だから安心して!」
「私のためなんかに…ありがとうございました。貴方は私の恩人です!」
「いやいや大袈裟だってば。今回は成り行きでああなっただけだし」
英雄を讃えるかのように尊敬と感謝の光を宿した眼差しを向ける少女に、ひかりは控えめに首を横に振る。
確かに、今回はたまたま鉢合わせた少女が現在進行形で追っ手に追われていただけで、ひかりとダスクは運悪くその騒動に巻き込まれた形と言える。
謙遜していたひかりを未だに目を輝かせながら見つめていた少女だったが、やがて何かを思い出したかのように声をもらすと、ひかりとダスクへ向き直った。
「あ、名乗り遅れてごめんなさい…わたしは花京院 希織。大和の国で人形師をしてるの」
花京院 希織(かきょういん きおり)と名乗ったその少女は、丁寧にひかりとダスクへ頭を下げたのであった。
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