水無月。

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「まぁくん! 大丈夫?」 ちぃは慌ててまぁくんの元へ駆け寄った。 「……ほら、くまちゃんだよ。」 まぁくんの手の中にはくまちゃんのぬいぐるみがあった。 まぁくんはそのくまのぬいぐるみをそっとちぃに渡した。 「ありがとぅ……。 あり……ありがと……。」 くまのぬいぐるみを抱きしめ、ちぃは嗚咽をあげながら泣いた。 ちぃの顔は涙でぐしゃぐしゃになった。 「な、泣くんじゃないよ。 そのくまちゃん、おばさんの形見だろ? 大事にしないとおばさん悲しむぞ。」 ちぃの家は父子家庭。 ちぃがまだ赤ん坊の頃、母親が亡くなった。 ちぃは母親の顔を知らない。 このくまのぬいぐるみは、ちぃが生まれた時に母親がくれたもの。 最初で最後の最高のプレゼント。 だからちぃはこのくまのぬいぐるみを肌身離さず持ち歩いてる。 まるで母親のように……。 まぁくんはその事を知っていた。 子供ながらにどれだけちぃにとって大切な物なのか、理解していた。 「うん、わかった。」 目をごしごしと拭いてちぃは一生懸命笑った。 ポツポツ……。 二人の頭の上に雨粒が落ちてきた。 ザザーッ! そして一気に、土砂降りの雨が降ってきた。 「うわっ、雨だ! 帰ろうぜ、ちぃ!」 まぁくんはちぃの手を引っ張り家路を急いだ。 「うん!」 ちぃもまぁくんに引っ張られながら、一生懸命走った。 この降り出した雨はまるで涙雨のようだった……。 ……━━ 甘くてちょっぴりほろ苦い思い出は、まぁくんこと相川 正喜(あいかわ まさき)とちぃこと浜野 千秋(はまの ちあき)にとってすごくすごく大切な思い出となった。 ……━━
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