平穏で、世界一幸せな日常。

6/8
前へ
/101ページ
次へ
「……俳優として引っ張り出すのは本当にこれきりにしてくれと、羽山に伝えてくれ。俺は、これ以上見知らぬ誰かの瞳に映るつもりはない。」 「は、はい。それはもちろん伝えます。」 エリさんがかなり緊張しているのが痛い程に分かる。 海斗の声が真剣だったからだ。 緊張しているエリさんがなんだか可哀想になって、私はわざと茶化すように海斗を見上げた。 「あ、でも…バーテンダーの服、似合ってたよ。似合ってたよねエリさん!ドラマのDVDが出たら買おうかな!」 「必要ないな。」 ……エリさんの緊張を和らげたかっただけなのだが。 これまた真剣な返しをされて固まるしかない。 「いつも目の前に俺がいるのに、そんなもの見る必要もないだろう。……どうしても見たいなら、いつも俺を映しておけ。お前の瞳の中のフィルムに、な。」 「!!!」 言うと同時に海斗の顔が間近に迫ってきて、胸が大きく跳ねた。 「…生憎、遊里のフィルムに映るだけで俺は満足なんだ。一瞬たりとも目を離すなよ。余所見は許さない。」 真剣で、熱い熱を孕んだ視線が私の瞳を焼く。 いや、瞳だけではなく、胸も、唇も、体の全てを火照らせ焼いていくのだ。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5458人が本棚に入れています
本棚に追加