ドミノと月と空耳と

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私は今、自由に動けている。走れる、跳べる。動く、動くんだ。 ――余命、半年。末期癌だった。 宣告された時は、ああそうかと納得した。いや、納得した振りか。 ただ、病室に戻った後も、どうしようもなく呆然としていた。 入院したのは、一週間前。その時にはもう、時すでに遅かったみたいだ。 今年で三十九。まあ、無理が祟ったんだろう。しょうがない。 悟ったふりをしていた私は、一日が過ぎるたび怯えていった。 所詮、やせ我慢。家族は妻と子供がいたが、今は別居。見舞いにすら来ない。 まあ、当たり前か。私は、暴力男だったから。
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