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太陽が沈む。
夫婦の月が空高く上がる。
藤志郎は一張羅の紫の着流しに袖を通し、絹の衣を頭に。
「今日は大物が釣れるだろうか」
雑魚ばかりでは飽きてきた。そんな口振りだ。
そして腰に差すのだ。
今まで片時も離さなかった愛刀を。
「さあ、狩りの時間だ。」
藤志郎は今にも外れそうな戸をこじ開け、今日もまた町へ繰り出す。
手口はいつも同じ。何時も相手を見る時は、上から見下ろしながら選ぶ。
「お兄さん、その大小くださいよ。」
いつもその口振りに、大抵が憤る。
そして抜くのだ。得体の知れない藤志郎に切っ先を向け。
「お兄さんは少しは出来るみたいだね?」
藤志郎の言う根拠は、先ず剣先がぶれていない。重い大刀を片腕で制御し、その瞳は塵をも残さぬと言わんばかりの気迫。
「低級ならその気迫に呑まれていても可笑しくない。まあ…上の中?くらいかな~。」
でも…
「でも足りないや。残念だね、お兄さん。」
藤志郎は構える男の前に突風のように飛び降りると、そのまま抜かずに切上をもってして男を倒した。倒れた男はおおよそ衝撃と脳震盪で起き上がらない。
「今日も出番はなかったね」
藤志郎は言いながら愛刀を撫で、うずくまる男の大小を手に高く、高く飛び走った。
その姿はまるで、天翔ける竜。
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