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あの時…目と目が合い、お互いを認識し、すれ違った夜。
あれから幾日経っただろうか…藤志郎は待って待って。
あれ程に血が騒いだのは初めてだ。
あれ程に殺り合いたいと思ったのは初めてだ。
だからこそ、あの夜を悔やんでしまう。ガラクタなど捨て置き、剣を抜けばよかった、と。
きっとあれは、藤志郎がここまで苦労してまでその耳に入れ、やっと来た待ち人だっただろうに。
「ついてないな。」
藤志郎は二畳程の畳に転がり、自嘲気味に笑った。
「わざわざ出向いてくれたのに…もういっそ…」
もういっそ、直接奇襲をかけようか。
けれどそうしてしまえば、信用が築けない。敵だと思われたくない。情報も何も得られず、ただ駒のように動くのは嫌だ。
「あーあ!やっぱり次を待つしか無いかあ!」
―――――…………………
その頃総司は総司で、何時ものように土方の部屋でゴロゴロゴロゴロ…
「総司、うっとおしい。」
頭の先から足の先までバッサリ斬られていた。
「あんなに張り切って行ったのに、収穫は無しか。撃剣の沖田 総司が聞いて呆れる。」
厳しい言い方をしながらも、土方の顔は緩みっぱなしだ。なにせ、その総司が手ぶらで帰ってくるとは。
「山崎さんだって居たんですよー!」
山崎は監察ということもあり、急ぎの隊務には絶対に欠かせない。
それには土方も目を見開いた。
「追わなかったのか?」
「追わなかったんじゃなくて、追いつけなかったんですよ!」
あの後、山崎も興味があり追いかけはした。が、どんな技を使ったのか…目の前から一瞬で消えてしまったのだ。
「そいつは面白い。」
土方も興味を持った。
総司を袖にし、山崎を振り切った。
そんな人物は隊には居ない。
「欲しいな。番井 藤志郎。」
そろそろ肌が汗ばんできた。そんな季節。
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