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立たされたのは、傍観者達を端に避けた道場の真ん中だった。
始めの合図から総司も藤志郎も、一歩も動いていない。
まるで…蛇の睨み合い。気を抜けばその毒の鋭い牙が食い込むのだろう。
「来ないんですか?」
安っぽい総司の挑発。
けれどそれに乗った。
カッン!カカンッ!
木刀の交じる音だけが響く。
「錯覚だったのかなあ。この程度なら、ほら。」
あの夜見た姿は。一重の切れ長な瞳に、黒く艶やかな髪は竜の尾のように長く、まさに天翔ける竜。
「ほら、ほらほらほらほら!」
総司が嬉々として切落し、左切上。そして一点を貫く刺突。
それが一本、藤志郎の左肩に入った。
ドッと後ろへ飛び倒される藤志郎。
起き上がってこない。そんなに強烈なものだったのか。だがそれまでは涼しい顔をしてかわしていたのに?
「わざとなんて、辞めてくださいよ~そういう冗談はあまり好きじゃないんです。」
その言葉に、藤志郎はクックックックッ。喉を鳴らしながら身を起こす。
「これは失礼。あまりの暑さに少し休憩したかったんですよ。」
人口密度の高い道場が熱気に満ちていても可笑しくない。
「「じゃあ本気で。」」
二人ハモったのも多少驚きだが、今の今まで本気で無かったのがまた驚きだ。
脳ある鷹は爪を隠す。
実のところ二人は瓜二つなのかもしれない。
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