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二人の本気は息を呑んだ。中にはその覇気に充てられて、立っているのがやっとの者も少なく無かった。
「歳、これは入隊試験になるのだろう?」
歳。それは土方。土方 歳三だ。
「はっきり言って…俺はこんな試験見た事無えよ、近藤さん。」
土方が相手を尊重した口振りは、近藤は上の立場だと簡易に予想がつく。
「行きます。」
総司の一言が切欠に、今度は双方引けを取らない攻防が始まる。
床板ギリギリから切り上げてくる三日月のような袈裟斬りを、一歩下がってかわせば今度は空いたままの腹に純粋に最短距離の一点を貫く刺突の一手。
それもかわし、まるで二人のやり取りは…
水に舞う月のように。
風に舞う花のように。
見る者全てを魅了した。
「久しぶりです。この感じ。気は高ぶるのに、それでいて心地良い。」
総司の言う事に、自分も同じ事を考えていた。と、藤志郎も頷いた。
ずっと乾いていた。
どんな相手を選んでも潤うことが無い喉の渇き。
「…血が、欲しいな」
ボソッと呟いた藤志郎の言葉は、恍惚として向かってくる総司には聞こえ無い。
けれど藤志郎の頭の中は、何時だったか血の雨に舞った贅沢な記憶が過ぎって止まない。
「ははっ!」
藤志郎は目を丸く、人相が変わったような面持ちで乾いた笑みを漏らすと、自分の木刀をわざと膝で折った。
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