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藤志郎の行動に、皆目を見張った。それは総司も論外では無い。
「何を………」
戸惑う声の中、藤志郎はやはり人相が変わっている。
その笑顔は純粋に楽しんでいる。
殺し合いと錯覚して。
「ああ、やっと潤う。楽しいなあ。」
藤志郎は半分の木刀の割れ目を総司に向かって投げ、それをかわされると分かっていて、同時に避ける総司目掛けて突っ込んだ。
「あひゃ!」
飛んでくる木刀を避け、それと同時に来る藤志郎をもは避けきれない。
ヒュッ!
総司の首筋から血が滴る。それを見た藤志郎は満足げに、物の怪のように笑っていた。
「…化け物」
どこからか声が聞こえる。
総司も自分の血を見たのは初めてで、どこか方針気味だ。
「そこまで!」
近藤が二人の間に割って入った。
「総司は山南さんに手当てしてもらいなさい。」
素直に従う総司。それと同時に、大概の傍観者達はその場をそそくさと離れた。
「君が…番井 藤志郎くん?」
藤志郎は我に返り、やってしまった。そんな、やりきれない表情でただ頷いた。
「いつも、ああなのかい?」
まるで鎖の外れた獣。自分が自分では無い感覚。けれど、もっと欲しいと思って止まない願望。
けれどそんな事は数えきれる程だ。ただ今日は。
ただ、
「今日は思った以上に気が高ぶってしまって…いつもは…」
いつもは以蔵がいたから、こんな事にはならなかった。
「そうか、いつもは総司みたいな強者相手じゃないものな!」
近藤が言う。
確かに、総司は強かった。何時もの雑魚とは違った。だから気が高ぶっても仕方がないと言えば、その通りだ。
「合格だよ!即戦力だ!なあ、歳。」
化け物と言われても、入隊…歓迎されていないだろうに。
「気にするこた無え。どいつもこいつも、総司しか見えてねえんだ。それにお前が勝ったもんだから、つい口に出ちまったんだろうよ。」
気遣われているのか。
それでも入隊出来た。それだけで十分だ。
番井 藤志郎、午の月入隊。
額から汗が滴り落ちる。
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