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総司が出て行ってから、籐志郎は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。
「今、なんと?」
未だに把握出来ない。と籐志郎は頭の中が真っ白だ。
「脱げ。と言ったんだよ。」
性懲りもなく簡単に言ってのけてくれるが…
「…何故?」
籐志郎には無理だ。
これには列記とした理由がある。絶対に知られてはいけない事。何より知られたくはない事。
「どうした?山崎も隊務に出た。ここにいるのは俺とお前だけだ。心置きなく脱げ。」
籐志郎は、何が心置きなく。だ、思いながらも今ここから去る訳にはいかない。瞳を閉じ、襟元に手をかける。
一張羅の紫の着流しに、白い肌がよく映えて。ゆっくりと帯をとく姿が、男とは思えない程に艶めかしく、女慣れしている土方でさえゴクリ。息を呑んだ。
「…やっぱりな。」
何の事か…それは、今目の前で多少恥じらいを隠せない籐志郎。
「俺の勘は外れないんだ。予想通り女だった。」
勘といっても、女人に関してだろう。籐志郎は羞恥に頭の中で文句たらたらだ。
「もういいですね!」
さっさと服を直してしまいたい籐志郎が、裾に手をやった時。
ガッ!
土方が籐志郎の華奢な腕首を掴んだ。何を!慌てる籐志郎に、土方がその頬を鷲掴む。
「上玉だあ。このまま逃がして土方様の気が納まる訳無いだろう?」
そんな事知った事か、と抵抗するも虚しく。両腕は上へ押し上げられ、両股には土方の片足がはまって身動き出来ない。
これだから女だ男だ嫌いなんだ。女になんか…女なんか…
「くっ…」
汗が、白い肌に滴り落ちる。
身動き出来ない状態で、ありったけの殺意を込めて土方を睨むも、全く相手にされずこれまでか。思った瞬間、身体が軽くなった。
首を傾げる籐志郎に、
「気の強い女は好きだ。それを落とすのも。番井、じっくり卑猥な俺の視線でも感じてろ。」
変な性癖の持ち主とゆうか…兎にも角にも今を逃れられたことに安堵しつつ、そそくさと衣服を直し、まだ賑わしい宴会へ走り戻った。
「あれは良い。あんな女中々いねえ!」
土方はご機嫌だ。それも最高潮に。
その頃、原田に酒を注がれながら背筋に冷たい汗が滴り落ちた。
虫の声も高々に、空には満点の星。
星は誰の願いを叶えるのか。
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