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大男が大刀を振りかぶる。
「剣筋も身体と同じなんですね。力任せで、ほら…」
言うと、ヒラリ。宙を舞って避けてみせる。
まだ白鞘からは大刀は、その閃光すら見せていない。
「こんな狭い路地裏では、大振りは向いていませんよ。」
大男はまたも馬鹿にされて、その頭の中は茶が沸かせる程だろう。
「ああ、そうそう。俺は男ですよ。懸想しないでくださいね?」
クスクス。笑う姿がまた気に入らない。そう言わんばかりに大男は、更に大刀を振り回す。
「…惜しいなあ。その破壊力。お兄さん、刀は止めて槍とか薙刀が似合ってるんじゃない?」
その言葉に、大男は一瞬剣を止めた。
それが最後だった。
カキー……ン!
大男の大刀は、青年が刀身を見せる事無く、ただその手から白鞘によって袈裟斬りされ離された。
「じゃあ貰っていくね?」
容赦ない言葉だが、大男は固唾を飲んだ。
気付いた事も多々ある筈だ。勢いだけでは生きていけない。
「お前、名前は。」
聞かれ、待ってましたと言わんばかりに答える。満面の笑みで。
「番井(つがい) 藤志郎(藤志郎)!」
絹が風に揺れて、顔が明るみになる。
目的を果たして、藤志郎はその場をさっさと去る。
「まだあんな…少年だったとはな。」
残る開花前の薄い花の香りに、酔いはすっかり覚めたようだ。
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