■塩田と奈津

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  あいつのメールアドレスは知っていたが、そう頻繁にメールを交わす相手でもなかった。 記憶にあるのは高校時代に何度かした極めて事務的な内容のものだけで、今回の件をメールで問いただすのはなんとなく憚られる。 まあ、岡野は逃げも隠れもしないだろうし、火曜日まで保留でいいだろう。 岡野が貸してくれたミステリーは、しっかりと俺好みの筆致で俺好みの展開を描いていた。 そうしてまたも訪れた火曜日。 いつものように淡白な挨拶を交わした後、俺はすぐに疑問をぶつける。 「おい、なんだ、先週のあれ」 「あれって?」 ことりと小首を傾げてとぼけてみせた。 こいつ、絶対分かっててやってるな。 俺の知ってる岡野奈津は多少ズレてはいるが察しは悪くない。 「恋愛小説を突きつけてきたり、お前の友達と俺を引き合せたり、どういうことだって聞いてるんだよ」 「ああ、うん……そうだね」 ふい、と目を逸らされた。 こうして言葉を濁して言い淀むなんて、らしくない。 やっぱり何か事情、もしくは企みがあるのだろう。 「ごめんなさい」 どうこう言う前に、岡野はぺこりと頭を下げた。 さすがに人目があるので、ごく軽いものではあったが。 それは確かに、形の伴う謝罪だった。 「おい、ちょっと待て。いきなり謝るな」 せめてどうしてなのか一連の説明をしてから謝ってほしい。 なにがなんだかわからないまま話が進んでいた。  
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