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岡野との出会いは、三年ほど前のことになる。
高校に入学して、色々あって妙な部活に籍を置くことになったのだが、そこにこいつもいた。それだけだ。
俺は交友関係の拡大に積極的なほうではなかったが、友達がいなかったわけでもない。
普通よりは少し控えめかもしれない程度に、高校生活を謳歌、というよりは消費した。
その三年間の中で、第一印象と現在の印象が一番食い違っている奴といったら、岡野だろう。
「ああそうだ、悪い。先週借りたのは読んだんだが、この天気だし万が一があったらと思って今日は持ってきてない」
「ん。わかった」
岡野は文庫本を差し出してくる。
いつからか、俺は岡野から本を借りるようになった。
俺が本を読むようになったのは、高校入学してすぐに始めた本屋のバイトがきっかけで、岡野と親しくなった理由も本にある。
俺が持っていて向こうが持っていないのを貸したりもしたが、やがてそれは弾切れとなった。
だからこうして今は、岡野から一方的に借りているだけとなる。
物の貸し借り、というのはなかなかにハードルの高いものだと聞く。
しかしこいつが一番の友人か、と聞かれたら答えは否だ。
男の友達が人並みにいないこともないし、岡野だって、物ごころついた時から一緒の幼なじみや、高校に入ってから親しくなった親友兼兄の恋人がいるわけだ。
ただ、こちらにとって岡野奈津という女子が比較的居心地のいい奴であることは否定材料が無い。
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