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岡野も岡野で、幼なじみや友人に本を積極的に読む奴が少ないらしく、俺に本を貸すのが楽しみの一つであるらしいから、悪い関係でもないだろう。
高校時代はよく文芸部に首を突っ込んでいたようだが、それなら文芸部に入ればよかったんじゃないかとも思う。
それについてはなにかと入り組んだ事情が岡野の中であるらしく、長くなりそうだから説明を聞くのはやめた。
「あれは面白かったな。ミスリードですっかり騙された」
「よかった。塩田さん、ああいうの好きそうだと思って。渡すタイミングもちょっと悩んだの」
ふわりと笑った。
本を借りては感想を述べる俺との付き合いの中で、ツボを心得ている。
岡野はとにかく本の虫だった。
棚の端から適当に数字を数えて選びとったものを買っているんじゃないかと思うほどに節操がない。
俺も本は読むほうだと思うようになったが、それでも本の虫とまではいかない。
食えない蓼のある俺は、岡野と比べたら足元にも及ばない。
ちなみに好きなのはサスペンスやミステリー。
今回岡野に借りたのは、ミステリーに分類されるものだ。
特に起伏もなく高校時代を過ごしてしまった俺の中に、過激な展開への憧憬があったのかもしれないと思った事はあったが、それもまあどうでもいいだろう。
そして今こいつが渡してきた本は、というと。
裏表紙のあらすじを見て、思わず眉が震える。
「これは、恋愛小説じゃないのか」
岡野が差し出してきたのは、俺にとっての蓼だった。
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