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「途中ちょっと……だけど、最後までいけばすごくいい終わり方なんだけど」
「すまんが、耐えきれなかった」
「じっくりミステリーを読む人だから、いけるかと思ったのに、わたしの思い違い。ごめんね」
そうもしゅんとされてしまっては、なんだかこちらが苛めているようでばつが悪い。
岡野が勧めてきた中で、俺が『あまり面白くない』と感じたことは以前にもある。
しかしそれはたいていの場合、わざと。
こいつが俺の好みを把握する中で、俺がこれは苦手だろうと思ってわざとぶつけてきたことが稀にあった。
ところが今日の岡野はどうだろう。
てんで期待外れとでもいうように肩を落としている。
「岡野のせいじゃない。俺には向いてなかったってだけだろう」
「そんなことはないんじゃない?」
「まず女が苦……相手するのが得意じゃないしな」
苦手、と言うと変な誤解を与えかねないらしいので言葉を選ぶ。
岡野には大変申し訳ないが、こいつの幼なじみなんて俺の苦手のテンプレートを綺麗になぞったような女子だったもんだ。
「そうかなあ。塩田さんだって、そのうちふっとウンメー的な出会いとか、キセキ的な直感とか、なにかそんなかんじのものがあるかもしれないよ」
口元に手をやるようにしながら岡野が言う。
ここが電車内じゃなかったら頭を揺さぶってやりたい気分だった。
お前は、本当に、あの岡野奈津なのか。
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