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「何がしたいんだ、お前は」
「塩田さんに恋愛小説を読ませたかった」
しれっと答えられては逆に困る。
やはり先輩の差し金だろうか。
そう言いながらも差し出してきた今週分の文庫本はしっかりとミステリーものだった。
俺も二冊の本を返すと、どうも、と頭を下げられる。
さて、もう一つの万が一として、こいつなりに俺にアプローチを仕掛けてきている可能性。
だがそれも否、だろう。
俺の知っている岡野奈津は、普段口数は少ないが、言う時はかなりずばりと言いきってみせる。
もしこいつが俺に好意を寄せていると仮定して、こんな回りくどい上に確実性のない方法を取るとは思えない。
岡野なりに恋愛のカケヒキとやらを楽しんでみたかったのだとしても、こいつの態度はあまりにもさっぱりとしすぎていた。
「だいたい恋愛恋愛って、お前だってそういうの楽しむタチでもないだろうに」
「そう?」
岡野はそういった恋愛沙汰において、俺と同じ『傍観者』の立場を貫いていたはず。
少なくとも、高校三年間では。
幼なじみ、友人、兄、と岡野のまわりの人間がそういった色恋で悩んだり喜んだりしてはいたが、当の岡野本人はさっぱりだった。
俺の知らない間にコトが動いていたのかもしれないが、そうであれば部室でだらだらしているとき俺の隣に座ってきたりはしなかっただろう。
ちなみにそれについても色恋とは無縁であると一言言っておく。
俺はたいがい部室で本を読んでいたし岡野もそれは同じだったし、俺の近くはだいたい静かだったからだ。
さらに言えば岡野の友人らとの位置取りの関係上、岡野が俺の近くに来るのは仕方がないことだったのだ。
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