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「そんなことないかもよ、わたしだってウンメーのオージサマがきたらわからないよ」
「棒読みで言うな。そんな日中から夢見るようなタチでもないだろ」
ですよねえ、と案外あっさりと肯定。
恋愛沙汰にぴんとこないのは岡野も同じと見てやはり間違いないようだった。
となると何故こんな小説を勧めてきたのかという謎が残る。
しかし時刻は8時26分。
岡野の友人が乗りこんできたことで、この話題は自然と幕引きとなった。
さて、ではここで少しばかり考えてみることにする。
岡野は俺に恋愛小説を読ませたいらしいし、先週貸してきたものは岡野的に『俺でも読める』と踏んだしろものらしい。
だが俺は読めなかった。
そしてたった今岡野が差し出してきたのは恋愛小説ではなくミステリー小説。
何故だろう。
俺に恋愛小説を読ませたいなら、今週だって恋愛小説を叩きつけて然るべきではないのか。
そうこう考えていると、岡野がなぜか俺の服の袖をくいくいと引っ張っていた。
お前、友達はどうした。
「塩田さん、ちょっとこっちに来てくれる?」
「は? どうして」
ふと視線を少しばかり遠くへ向けると、反対側のドア脇にいた女性二人――岡野の友人らが、信じられないといった顔でこちらを見ていた。
岡野に導かれるまま、俺はその輪のなかに放り込まれる。
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