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「あの、小林先輩」
「……」
あれ、無反応?
「小林先輩?」
再び呼び掛ければ、先輩はブルーグレーの瞳を大きく見開いて固まっていて。
「……知ってたんだ? 俺の名前。呼ばないから、知らないのかと思ってた」
「え? あ、はい」
知ったのは昨日ですけど、と明らかに余計であろう言葉を飲み込んで、言葉を続けた。
「有名だし、人気者じゃないですか、先輩」
「人気者? 俺が?」
「だって、わたしここに来るまでに何人もの人に声を掛けられましたよ」
最後の一口のメロンパンを口に放り込んだ小林先輩は、何だそれ、と肩を竦めた。
「ただの興味本位だろ」
そんなわけない。
わたしに詰め寄る人は、皆真剣だったし、涙目の人だっていた。きっと、本当に先輩のことを好きな人達だと思う。
なのに、そんなふうに言う小林先輩に寂しさを感じた。
「……声を掛けてきた人が言ってました。先輩は告白されても、すぐに断るって。彼女なんか作るつもりはないって」
言葉を吐き出しながら俯くと、お弁当箱の中のタコウインナーがひどく滑稽に見えた。
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