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「まぁ、そんなふうに言ってはいるな」
その言葉に顔を上げれば、木の幹に背中を預けた先輩は、立てた膝に頬杖をついてこちらを真っ直ぐに見ていて。
「じゃあ、どうしてわたしに付き合おうなんて言ったんですか?」
「……」
「告白が面倒だから、わたしを女の子避けにでもしたいんですか? 偽物の彼女がいたら、告白は減るだろうって考えたんですか?」
真っ直ぐ見据えたまま黙る小林先輩に、捲し立てるように次々と質問をぶつけた。
震えそうになる声に気づかないふりをして。
「そういう人が必要なら、わたしじゃなくて、別の人を当たってください。わたしは先輩の都合に付き合っていられる程暇じゃないんです。先輩から見たら、つまらない女かもしれませんけど、わたしだって人並みに恋愛したり、好きになってくれる人と付き合いたいんです」
一気に吐き出すと、ひとつ息をついてお弁当を閉じてバッグにしまった。
何も言わない先輩を一瞥して立ち上がる。
「わたし、小林先輩とお付き合いする気はありません。失礼しま……っ」
ガクリと視界が揺れて、再び芝生の上に座り込んでしまう。何で、と考えるよりも早く、わたしの手首を掴む小林先輩が引っ張ったのだと理解した。
「先輩、放してください」
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