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凛とした静寂に割って入る的を射る音。そして、また緊張感と共に静寂が訪れる。
……ヤバい。足が痺れてきた。
わたしは学校の隅っこにある弓道場で、味わったことのない空気に包まれながら、そんな場違いなことを考えていた。
「あれ、……河瀬?」
正座するわたしの背後から声を掛けられて振り返ると、痺れた足がチリリと刺激された。
「うっ……、か、梶谷先生?」
足の中で強烈な炭酸が弾けるみたいな痺れを何とか堪えて、背後に立つ声の主を見上げれば、担任の梶谷先生が驚いたような表情でわたしを見下ろしていた。
「河瀬、何でここに?」
「何でって、痛っ」
それはこっちのセリフだ。
そう言ってやりたいのに、わたしの足はそれをさせてくれないようで、くっと息を詰めた。
「俺が呼んだ」
まともに返答ができないわたしの代わりに答えたのは、紛れもなくわたしをここに連れてきた張本人。
「聡悟が? ……ああ、なるほど。そういうことか」
何がなるほど、なんだ。
他の女子には穏やかぶってるくせに、わたしに見せる顔は何らかが含まれている気がしてならない。
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