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「ミィ、足崩したら? 慣れてねぇだろ、正座」
「はぁ……」
「付き合わせて悪いな」
わたしの目の前に座り込んだ小林先輩は、初対面の昨日と同じようにジャージを着ていた。ただ違うのは、タオルを巻いていないことと、たくさんあったピアスが全部外されていること。矢を射る時に頬すれすれを通る弦がピアスに当たって怪我をするから危ないらしい。
「いや、何て言うか、新鮮です」
「そ? もう少しで終わるから」
そう言った先輩が的に放った矢を取りに行く後ろ姿を、痺れの治まりかけた足を撫でながら眺めた。
まさか、小林先輩が部活をしているとは思わなかった。しかも硬派なイメージのある弓道。
部活と言っても、部員は先輩を含めた五人(三人は幽霊部員)しかいないらしいので、実際は同好会扱いらしい。
昼休みに一緒に帰る方向で話が決まり、帰る前に行くところがあるんだけど、と言う先輩についてきたらここに連れてこられたというわけなのだ。
「河瀬、聡悟と付き合ってるんだ?」
隣で腕を組んで立つ梶谷先生がわたしを見下ろすのを感じて、まぁ、と一言だけ返しておいた。
どうにも梶谷先生が苦手なのだ。
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