親切なキミ

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不意にわたしのものではない声がして、振り返ると真っ黒なタオルを頭に巻いた男子が、目を真ん丸にして立っていた。 「えっと……なんか、すみません」 不可抗力だとしても、恐らくわたしが叫んだことに驚かせてしまったのだろうから頭を下げておく。 「何? 迷子?」 「えっと……」 確かにその通りなんだけど、初対面の男の人……たぶん先輩であろう人に、正直に言うのも恥を晒すみたいで言いにくくて目線を下にずらした。 ……バケツ? その先輩であろう人は、水を張ったバケツを持っていて中には雑巾らしきものがふにゃんと漂っている。 そういえば、恰好もTシャツにジャージだ。頭にタオルも巻いて、ヤル気満々な姿。 掃除中? そう思うしかないくらい、立派な掃除仕様の恰好のその人。 水色と灰色が混じったような神秘的な色の瞳に不釣り合いな、見ている方が痛くなりそうなおびただしいピアスの数。 とても掃除なんかしなさそうな風貌に、罰ゲーム中なんじゃないかと思わされる。 とにかく見れば見るほどに謎が深まるのだ。
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