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「そんなの、知らねぇよ。ミィ、着替えてくるから、梶谷とは話すなよ」
よくやく解放してくれたかと思えば、そんな命を落として更衣室らしき扉へと入っていってしまった小林先輩に呆気にとられていると、隣からクスッと笑う息が漏れた。
「仲いいね。俺は行くから、聡悟に戸締まり確認するように言っておいてね」
「え? あ、はい……」
にっこり微笑んで手を振る梶谷先生は、自身が言った通り、本当に『様子見』だったらしく、特に何かをするわけでもなく弓道場を出ていった。
「やる気、あるのかな。ていうか、あの人、結婚してたんだ」
手を振った時に見えた薬指にはまる指輪はおそらく結婚指輪だろう。あんな腹黒そうな人を旦那にするなんて、奥さんは相当心の広い人なんだろう。
普段からやる気がみなぎるようなタイプではなさそうだし、へらへらしていても人に関心がなさそうなイメージだったから意外だ。顧問だということも、結婚していることも。
「ま、どうでもいいけど」
けれど、実際のところ、梶谷先生に対するわたしの本心なんてそんなもので、数秒後には今日の夕飯は何だろう、なんて考えていた。
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