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「送るよ」
先輩は一人言のように言うと、駅の方向にゆっくりと歩き出す。
自然と視界に入る彼の金髪の後頭部が満月を連想させ、それを眺めながら先輩の後ろを歩いた。
途端、ねぇ、と振り返った先輩の眉間には立派なシワが刻まれていて。
「後ろ歩かれると、何かあった時に対応遅くなるから、こっち」
そして、当たり前のようにわたしの手をとった。
「……」
こうして自然に気遣いを見せるのは、小林先輩の素なのか、それとも『落とし』にかかっているからなのか。
「難しい顔してる」
「はい?」
「これ、そんなに嫌?」
幼稚園児みたいに繋いだ手を目の高さまで上げて首を傾げる先輩。手を繋いだのなんて初めてじゃないのに、何を今更、と呆気にとられた。
「嫌、ではありませんけど……」
「けど?」
「何か、慣れてるなぁ、と」
思わずポロリと本音が溢れ出た。
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