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それは、わたし達の間に恋愛感情が存在していないのだから、当たり前なのかもしれない。
先輩の心情も同じようなものだろう。茜から「足を閉じて座りなさい」と耳にタコができそうな程言われるような、がさつなわたしを女子扱いできるくらいなのだから、女の子の扱いなんかお手のものなのかもしれない。
きっと、先輩にとってこんなことくらい何でもないじゃないだろうか。
「期待に答えられなくて悪いけど、別に慣れてるわけじゃないから」
「え?」
不意に口を開いた小林先輩は、前を向いたまま僅かに笑みを携えて、わたしの手を握る力を強めた。
「俺の彼女になったのも、こんなことするのも、ミィが初めて。ミィにしかしない」
何か……。
不思議な感覚だった。わたしだけ、というその言葉が静かな水面に落ちる滴のように、心の中にポタリと落ちた。そして、全身に言い様のない感覚がじんわりと波紋みたいに広がっていく。
温かい、何か。
正体がわからないそれは多少のモヤモヤ感を生み出したけれど、これっぽっちも不快じゃなかった。
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