前向きなキミ

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「ほら、美季はこっち」 取られた手をやんわりと引かれ、さっきまでいた場所、小林先輩の隣へと導かれる。抗うことなく素直に足を進めれば、先輩は小さく笑った。 「髪、崩れてる」 「あ……さっきの」 佐渡先輩に撫でられた時に乱れたものだろう。 短い言葉にそんな意味を込めて呟くと、大きな手が髪に触れる。 「前にも言ったけど、篤史でもだめ」 「はい?」 少しずつ少しずつ。 髪をすくように動かされる手に心地好さを感じていると、ぽつりと落ちてきた言葉。 問い返して顔を見上げようとするのに、先輩は動かないで、とわたしを制して髪の毛に触り続けた。 「篤史だけじゃなくて、梶谷でも他のヤツでもだめ。あんまり無防備に触らせないように」 言い聞かせるような物言いに、思わず笑いが溢れる。 嫉妬してくれるくらい小林先輩がわたしを想ってくれる嬉しさと、わたしが他の人とどうこうなるわけなんてないのに。 そんな思いから出たものだったけれど、先輩はどう受け取ったのかちょっとだけ声を堅くして。 「笑い事じゃねぇっつーの。こっちは心配で仕方ないっていうのに」 本当にそう思っているらしく、最後には重い溜め息まで付け加えられた。 心配する必要なんて全くないにのだけれど、小林先輩の気持ちは素直に嬉しい。ヤキモチを妬いてくれることも、心配だと言ってくれることも。 だって、先輩の胸の中にわたしがちゃんと存在しているっていうことだから。 もういいよ、という先輩の声に顔を上げると、 チョコレートブラウンの瞳がきゅっと細められた。
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