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「ありがとう」
ふいに告げられた言葉。
花を贈ったことへのものにしては、どこか重みのある響きのように聞こえた。
けれど、それ以外にお礼を言われるようなことが思い当たらない。
内心で首を傾げていると今度は後方から声が上がり、そこでわたしの思考はプツリと切断された
「はぁ、久々にこんなに笑ったなぁ。よし、じゃあ写真撮影しようか」
俺も暇じゃないし、と付け加える梶谷先生はどこまでもマイペース。
そりゃ、中断させたのはわたしだけど、今の今まで笑い転げていたくせに、あっさりと切り替えるあたり我が道を行く人なのだということがよくわかる。
一方の佐渡先輩は、すでにポーカーフェイスに戻っているし。
どうしたらそうやって何事もなかった感が出せるのか一度聞いてみたいものだ。
聞いたところで、わたしが実行できるかなんて到底無理な話なんだけれど。
「篤史、もう少し左。……うん。それじゃ、撮るよ」
カメラをタイマーにした梶谷先生がこちらに駆け寄り、小林先輩の隣に立った。
「ちゃんと笑えよ」
こうして皆で並ぶのはどこか気恥ずかしい。
梶谷先生に言われた通りに浮かべた笑顔にも、それが表れているだろう。
それでもきっと、この瞬間はわたしの宝物になる。
根拠なんて全然ないけれど、なんとなくそんな気がした。
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