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ーーSide 聡悟
ずっと胸の中にあった言葉はありふれているものだけど、言わずにはいられなかった。
「ありがとう」
俺の前に現れてくれて。
俺を変えてくれて。
この手を掴んでくれて。
隣にいてくれて、ありがとう。
君は不思議そうな顔をしたけれど、好きだという感情と共に育っていく感謝の気持ちを伝えずにはいられなかったんだ。
****
写真を撮り終えるなり、まだ仕事が残ってるからと言い残し慌ただしく弓道場を出て行った梶谷。
その騒々しさを唖然と見送っていれば。
「なんだか、急に静かになっちゃいましたね」
ポツリと美季が呟いた。
確かに梶谷が去っただけだというのに道場内はしんと静まりかえっていた。
本来、道場とはこうあるべきだし、普段部活動をしていても静かなのは当たり前だった筈なのだけれど、どこか物寂しさを感じるのは今日が卒業式だからだろうか。
ぐるりと見回してみても、いつもと何も変わらない弓道場。
楽しい思い出ばかりではないが、それでもやっぱりここは俺にとって大切な場所であることには違いない。
辛い時は一心不乱に弓を引いて何も考えないようにし、楽しいときは皆で笑い合いながら隅々まで掃除をした。
たくさんの思い出が残るここに名残惜しさはあるけれど。
「さて。じゃ、俺達も帰りますか」
支えてくれたこの場所から、一歩踏み出して新しい場所を探してみよう。
俺が、もっと大人になれる世界を。
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