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「河瀬さんも戻ったことやし、俺は帰るわ」
「は?」
美季が駆け寄って来るのとほぼ同時に発せられた篤史の言葉に首を傾げれば、当の本人はあっさりしたもので。
「ほんなら、またな」
卒業式らしからぬ挨拶を残して歩きだした。
篤史の行動に驚いたのは俺だけではないらしく、篤史とすれ違う美季も目を丸くして足を止めた。
俺から少し離れた位置。
立ち止まったふたりが言葉を交わしているのはわかるが、この距離では何を言っているのかまでは聞き取れない。
背中を向けている篤史の表情は窺えず、美季のきょとんとした表情から、帰っちゃうんですか? なんて聞いているのだろうことは何となくわかる。
それからほんの数回やりとりをしただけで、再び手を挙げて歩きだす篤史。
それに手を振って見送る美季に近付くと困ったように笑いながら。
「お邪魔虫は勘弁、らしいです」
なんて言い出すから、何のことかと首を傾げてすぐにそれが篤史の言葉なのだと理解した。
と同時に篤史の妙な気遣いに彼女と同じように苦笑するしかなかった。
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