第六章 審判の日

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しかし、イオルの言葉を信じられず、混乱した彼女の矛先は、その元凶たるシルヴィアに向かった。 「その女にたぶらかされたせいね」 「母上!」 違うと声を上げるが、オルスティアには届かない。 「イオル、お前はだまされているのよ! 国が滅び、アスターに取り入るため、その身体を売った卑しい娼婦に! 神の娘? 違うわ。その女は人外の力で、男を惑わすただの淫魔! ただの化け物よ!」 そう言いながら、一歩、また一歩とオルスティアはイオルに近づいてくる。 「目を覚ましてイオル。あなたに相応しい妃はわたくしが選んであげる。そして、あの鬼を、アスターを殺し、皇帝になって。そうすれば、わたくしたちは、幸せになれる。誰にも脅かされることなく、平和に……」 イオルは、シルヴィアの身体をぎゅっと握り締める。 そして、アスターの方へ殺気をみなぎらせた視線を送ると、シルヴィアの身体をアスターの腕の中へ突き飛ばした。 「イオル様!」 「イオル!」 そして、彼は、腰に下げてある剣を抜くと、アスターの方へ向けた。 その様子にオルスティアはうれしそうに笑い、イオルをけしかける。 「そうよ。イオル。その鬼も淫魔も殺して、やり直しましょう。そうすれば、ずっと一緒にこの国で幸せに暮らせるわ。ずーっとね」 その無邪気な悪意にイオルの怒りが頂点に達する。
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