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ワァァァァァァーーーー
民衆の歓喜の声がこだまする。
ある者は手を振り、ある者は、花吹雪を散らす。
街道を占拠し、ゆっくりと行進する彼らに向かって。
「すごい」
その光景を馬上から白いレースのヴェール越しにシルヴィアは眺めていた。
『これが大国リリィアード』
初めて訪れたリリィアードはシェファーズとあまりにも違っていた。
整備された町並み。
活気ある市場。
洗練された建物。
シェファーズとの国力の差を思い知らされる。
こちらが都会だとするとシェファーズなど片田舎だ。
リリィアードが持つ雰囲気に圧倒される。
シルヴィアを前に乗っけているアスターはそんな彼女の反応に満足げだった。
「驚いたか?」
「ええ」
アスターの凱旋に喜ぶ民衆たちの声を聞きながら、隊列は徐々にリリィアード皇都の中心に近づいていく。
アスターの表情は変わらない。
だが、シルヴィアは気がついていた。
アスターの体が緊張で強張っていることを。
手綱を握る拳に力がこめられていることを。
『アスター様。お父様のことが心配なのね』
シルヴィアは前方に見えるリリィアード皇宮を見つめながら事の始まりを思い返していた。
先日、シェファーズにいたシルヴィアたちのもとへリリィアードからある知らせが届いた。
皇帝暗殺未遂事件発生。
アスターはその知らせをモシャスから聞くと、寝所に側近を呼び出した。
一人は、双子の弟イオル。
もう一人は、シェファーズ侵攻軍副司令官 アービス・クライバーだ。
「どう思う?」
開口一番にアスターの口から飛び出した言葉は意見を求めるものだった。
その問いに腕を組み、手を口元に持っていった思案中のアービスが、まず答えた。
「この間ローザリオンとの戦が終わったとたんこれですからね。なんとも言えませんが十中八九罠じゃないでしょうか?」
彼の言葉に皆、一斉に黙り込む。
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