第一章 鬼神の凱旋 白姫の涙

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それは、その場にいたシルヴィア以外の人間すべてが感じたことだった。 「罠?…それはどういうことなのですか?」 一人、話についていけないシルヴィアはアービスに説明を求める。 「いや。事件について詳しい経緯が分からないんで、本当になんとも言えないんですが、狙いは皇帝陛下ではないような気がするんですよ」 それまで一言も発さず黙って聞いていたイオルが口を開く。 「私もそう思う。おそらく暗殺事件の主犯の狙いは……」 全員の視線がたった一人に集中した。 「俺…だろうな」 アスターはフッと自嘲の笑みをこぼす。 「分かりません」 シルヴィアが静かに口を開く。 「何も分からないのに、どうして、アスター様が狙われていると……」 心配そうにアスターを見つめるシルヴィアの頭を隣に立っていたアスターは安心させるかのようにポンポンとなでた。 「あ~。それはな。この皇子様は味方も多いが、敵もむちゃくちゃ多いんだな」 モシャスの言葉にイオルもアービスもうんうんと頷く。 「それにアスターの唯一の弱みが父上だからな」 「皇帝陛下に何かあれば、リリィアードに戻って来ざるを得ませんからね」 モシャスはその縦も横も広い巨体を屈め視線をシルヴィアの高さに合わせる。 笑みを引っ込め、真剣な顔で。 「ルドルフ皇帝陛下は賢帝として名高い。民や臣下からも信望厚く文武にも秀でている。皇帝陛下の暗殺を企てるとしたら、まず国外勢力、特にローザリオンを疑うべきだ。だが、陛下の警備には二重三重の包囲網がしかれ、暗殺するのは厳しい。実際、この数十年こんな事件は起こっていない。しかも暗殺未遂が起こった状況が問題だ。知らせには急な視察に赴き、そこで襲撃されたと書いてあった。」 シルヴィアはハッとする。 「それは、つまり…」 「陛下の行動を事前に知ることができる者が企てたとしか考えられないのさ」 「ですが、陛下の周りにいる人間は現状に不満を抱いている者はいないと思います。あるとすれば後継者問題です」 アービスは、少し辛そうな顔をした。 「アスター様を推す者たち、イオル様を推す者たちとで対立しているのです」 口を押さえ驚くシルヴィア。 二人の顔を交互に見る。
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