820人が本棚に入れています
本棚に追加
一人は金髪碧眼の誰よりも皇子らしい皇子。
もう一人は……。
黒髪黒目の鬼神と呼ばれた皇子。
生まれる前から共に同じ女性の腹で育った二人。
その二人が皇帝の座を争っているだなんて。
信じたくなかった。
確かに二人は仲が良さそうには見えなかった。
しかし…。
シルヴィアの瞳が潤む。
その様を見ていたモシャスとアービスはぎょっとした。
「ひっ、姫さん」
「シルヴィア様?」
その瞳から水晶のような涙が音もなく落ちる。
「おい」
地獄の底から響き渡る低い声が聞こえた。
シルヴィアと二人の間にアスターが割って入る。
「泣かせてどうする」
腕を組み仁王立ちのアスターにモシャスとアービスは青ざめた。
シルヴィアは目の前にある大きなアスターの背を見る。
アスターはシルヴィアの方に振り向くことなくただ一言。
「それが、俺たちの運命だ」
その言葉にますます胸が痛む。
「私は、そのことでアスターと争うつもりなどないよ」
それまで黙って聞いていたイオルがシルヴィアの傍へ行き、微笑みかけた。
安心させるように、彼女の頭をなでる。
「確かに、周りはなんやかんやうるさいけどね」
アスターの眼が鋭く光る。
それが本当にお前の本心なのかというアスターの疑いの心が見える眼光だった。
「二日後、リリィアードに向けて出発するぞ。用意しろ」
アスターがモシャスとアービスに命令する。
「姫さんはどうすんだ?」
「連れて行く」
「危険じゃないか?」
アスター以外皆、心配そうにシルヴィアを見る。
だが、シルヴィアの心は決まっていた。
置いていかれたくない。
一人は嫌。
傍にいたい。
「私も連れて行ってください!」
必死だった。
「置いていかないで・・・…」
普通の人間がシルヴィアの涙ながらの懇願に逆らえるはずなどなかった。
二日後、アスター一行は一万の兵と共にリリィアードに凱旋した。
目の前にある華やかな皇宮に今から入城する。
これは罠かもしれない。
そう言っていた。
狙いはアスターの可能性が高い。
シルヴィアは不安そうな瞳で皇宮を見据えた。
不安に押しつぶされそうになる。
『何も起こりませんように』
シルヴィアの願いはそれだけだった。
最初のコメントを投稿しよう!