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「シルヴィア、行くぞ」
アスターはシルヴィアの右手を取るとゆっくり彼女をエスコートし、前へと歩み始めた。
そしてイオルも少し後ろに下がり、二人についていく。
アービスたちはイオルのさらに後ろにつく。
イオルは無言で示したのだ。
自分の立場を。
自分はアスターに歯向かうつもりはないと。
ゆっくりと静かに皇帝ルドルフが座る玉座へと進んでいく。
皇帝はその様を面白そうに見つめていた。
アスターたちが一斉に膝を折り、首をたれ、皇帝に礼をとる。
「面を上げろ」
皇帝の声に導かれ、皆顔を上げる。
シルヴィアは初めてリリィアード皇帝の顔を見た。
金髪碧眼の男性がそこにはいた。
シルヴィアは彼の顔から眼が離せないでいた。
なぜなら皇帝陛下は驚くほど似ていたのだ。
後ろにいるイオルに。
イオルの将来の姿を垣間見たような気分だった。
「皆、ご苦労だった。最小限の犠牲でシェファーズを併合し、ローザリオンの侵略を防いだ功は大きい。戦に参加した者すべてに褒賞を与えよう。ささやかではあるが今宵、そなたらを祝う宴を催す。それまで、ゆるりと休むがよい」
そういうと皇帝ルドルフは立ち上がり、玉座からこちらへ下りてくる。
そして、シルヴィアの前で止まると、跪く彼女の手を取った。
「そなたがシルヴィア姫か」
青い瞳は優しくシルヴィアを包む。
故国を滅ぼした征服者と亡国の王女との対面に皆、注目しているのが分かる。
「シエラによく似ている」
小声でつぶやいた言葉がシルヴィアの耳に届く。
「お母様を知っていらっしゃるのですか?」
「ああ。よく知っている。皇妃もそう思うだろう?」
皇帝ルドルフの視線の先には玉座から一段下がった場所に腰掛ける蜂蜜色の髪の美しい女性がいた。
「ええ。本当によく似ていらっしゃるわ」
おっとりとしていて、まるで少女のように微笑む皇妃オルスティアに見つめられ、シルヴィアの頬が微かに色づく。
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