ある失業者の肖像

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「ちょっ!いきなり解雇(クビ)って、どういう事ですか?!」 タケルは事務長のヨハンに詰め寄った。 「あぁ、お前さんの立場には同情するがね?仕方ないんだ」 些か頭髪の密度が薄くなった頭をかきながらヨハンは諭す様な口ぶりで話を続けた。 「アップルトン星系の件は、さすがにお前さんも知ってるだろう?」 「そりゃまぁ、、」 『アップルトン独立騒動』 工業都市として知られたアップルトン星系が突如中央政府からの独立と、『ティルジレット条約機構』への加盟を宣言したこの事件は、ここ一ヶ月程ニュースのトップを飾り続けている話題だ。 何処の辺境で、すべての情報を遮断して世捨て人にでもならない限り、知らない方がおかしい。 「うちのお得意様の三割強が、あの辺りの関係だ。それもわかるな?」 この時代、交易商の業務内容は、自らの才覚で商品を選び、販売先を探し出し利益を得る『商人』というより、契約を結んだ企業間の物流を担う事が多い。 特に、タケルが勤務している『ランセ商会』の様な個人経営に毛が生えた程度の中小では、それが普通だ。 「今回の騒動でな、正直ウチも厳しいんだ。今回分の資金繰りは、まぁなんとかなった、、でもなぁ、来月以降どうなるか、、」 ヨハンの、いや会社の言い分はわかる。 だがタケルには、引き下がれない理由があった。 「事務長、頼みますよ!知ってるでしょ?あと三ヶ月!三ヶ月なんですよ?」 タケルが所有している免許は商科航宙二種。 これは商科学校の専門課程を修了すれば習得出来るが、制限も多い。 実務にはあまり役に立たない資格として有名だ。 独立を目指すには最低でも一種が必要だが、その為に必要なのは二種習得後一年以上の実務経験。 それで初めて受験資格が得られる。 タケルが就職したのが九ヶ月前。 受験資格は当然ない。 「あぁわかってる、わかってるさ、本当にすまないと思っているから、相場より少し上乗せして、現金支給だ。そこをわかってくれないか?」 「や、だったら?三ヶ月、、なんとかお願いしますよ!」 食い下がるタケルに困り顔のヨハンだったが、しばらく考え込むと、仕方ないといった感じでタケルに向き直った。 「あぁわかった。社長には私から頼んでみよう」 「やった!」 タケルは勝利を確信した。
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