ある失業者の肖像

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「と、なるとこれは返し貰わないとな」 ヨハンは、そういうとタケルの手から封筒を取り上げ、セカンドバックに入れようとする。 「え?や?それは」 「当たり前だろ?これは、こちらの都合で解雇する迷惑料込みの退職金だ。退職しないなら返して貰う」 それはその通りだが、、 「それにしてもだ、お前さんがこんなに会社に尽くしてくれるとはな。意外と貯えていたんだなぁ」 「は?」 「そうだろ?会社がこの状態だ。しばらくは給料なんかは半分以下だ」 「!」 「どうした?」 「じ、事務長、、冗談、、ですよね?」 「冗談なもんか!知らなかったのか?」 中小企業の給与などたかが知れている。 ましてや駆け出しの新人の給与たるや、、。 家賃、食費、光熱費、その他諸々。 ぎりぎりである。 「、、む、、無理、、です」 ……… 「それじゃ、達者でな。悪く思うなよ」 ヨハンの声を背中に受けながらタケルは事務所を後にした。 タケルは空を見上げる。 抜ける様な深い蒼。 その先に、タケルが目指す場所があった。 吹き抜ける風の冷たさに思わずジャケットの衿を立てる。 「まいった、、な」 タケル・ゴウ 22歳の秋。 人生初の失業であった。
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