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プールは広い。
その真ん中に落ちてしまったタオルのところまで泳いで、タオルを手にすると、さっきの女の子のところまで泳いで戻る。
プールサイドまでたどり着くと、女の子はそこにしゃがんで私を見ていた。
パンツ見えそう。
私は女だからかまわないけども。
いや、この子には私はイチに見えている。
男なんだろう。
泣きそうなくらいにうれしそうな顔を見せられて、かなり複雑だ。
どうしよう…。
とりあえず…。
「ごめん…」
「ありがと…」
私とその子の声はかぶって、私はその恋する乙女な視線から逃れるように顔を逸らして、びしょびしょになってしまったタオルを差し出す。
非常にやばい…。
この雰囲気はやばい。
逃げ口が女の子に塞がれている気がして、プールからもあがれない。
しばらく無言で。
どうにかして逃げようと、水をかきわけて歩いて、女の子から離れたプールサイドに上がる。
ネクタイをはずして、制服の水気を絞って。
靴下を脱いで。
裸足でぺたぺたと歩いて 、上履きを手にして更衣室へ…。
もちろん逃げている。
私は知っている。
この空気がなんなのか。
「あのっ」
大きな女の子の声が背中に聞こえた。
私はびくっとして、そのまま逃げるように歩こうとしたら、背中から腰に腕を回して抱きつかれ、引き留められた。
に、逃して。お願い。
それは私が聞くことじゃないっ。
「好き…です」
私の背中に額を押し当てて、彼女は小さな声で言ってしまって。
私の腰に回された腕は小刻みに震えてる。
彼女は精一杯の気持ちで告白したと思う。
私はかなり焦る。
イチならの反応はわかっても、女心な私がそれをできない。
イチなら振り払う。
イチなら問答無用で逃げる。
イチなら何も言わない。
できないってばっ!
私は動けず、何も答えられず。
固まったように立っているだけ。
私の着ているシャツをぎゅっと掴む女の子の手を見て、どうしても私には振り払うことができなくて。
私は女の子を振り返る。
彼女は私の顔を見上げてくる。
「ごめん…」
私は謝って。
イチならこんな優しくはないとわかっていても謝って。
女の子は涙をその目に貯めていってしまう。
私は女の子に泣かれることに弱い。
イチなら問答無用だ。
わかってるっ。
でも放っておけないってばっ。
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