双子

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今の私がイチのふりをしていることはわかっているけど…。 私を見上げたまま、頬に涙を溢していくその子の顔を見ていたら胸が痛くなる。 女の子の手をほどいて、振り返って向き直って、私は彼女の頬にふれて、その涙を指先で拭う。 本当にごめん。 でも、それ、イチに言っていたら、たぶん、無視されてる。 彼女に言ってしまいたいことはあるけど言えない。 まっすぐに、フラれてもまだ好きですと私を見てくる彼女の視線。 私はその頬に軽く唇を押し当てた。 彼女の目は驚きに変わり、赤くなって俯く。 泣き止んだ。 「俺、女嫌いだから。おまえが嫌いっていうわけじゃないし。だから、ごめん」 私はイチのふりをしつつ、彼女を泣かせないように言葉を選ぶ。 もちろんイチがこんな優しいわけないのはわかってる。 わかってるけど…私には無理。 ごめんって、つきあえないって、はっきり言ってあげるのも一つの優しさだ。 イチは…向き合ってもくれないだろう。あれは。 女の子はこくんと頷いて、私は彼女に背を向けて男子更衣室へ。 すごい罪悪感を感じて、溜め息がこぼれる。 更衣室へ入るまでは我慢した。 あの空気は…告白で。 私はなぜか女の子にモテるから、ああいうものを何度か経験させてもらった。 私に同性愛はない。 毎回、断るのも心苦しいものだ。 まさかイチのふりをしているときに、あれを食らうことになるとは。 だってイチ、絶対、思いきり女の子を寄せ付けていないと思う。 「なに溜め息ついてるんだ?イチ。飯行こうぜ、飯…って、おまえ、びっしょびしょ。プールに落ちたのか?マヌケ」 「うるさい。タオル貸してくれ。多少湿っていても許してやる」 「それが借りる態度か?」 なんて言いながらも、イチの席の前の男の子は、私にバスタオルを投げてくれて、ありがたくそれで拭う。 バスタオルは男くさい。 ないよりはマシだけど。 というか、視界に全裸な男が見える。 私はタオルを頭からかぶって髪を拭うふりをして、自分の視界を隠す。 イチになりきるのは簡単だと思っていたのに、なんだか大変だ。
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