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昼ごはんは食堂で食べて、そのあとは服を乾かすように太陽の下に寝転ぶ。
私のそばには、あの男の子がいる。
まわりと話している内容から、クレヤカズキという名前が彼の名前らしい。
が、イチが彼をどう呼んでいるのか、私はまだ把握できていない。
芝生の上に寝転んで、湿ったカッターや中に着たシャツを乾かそうとしても、なかなか乾いてくれない。
ズボンも下着も濡れていて気持ち悪い。
脱ぎ捨ててしまいたいけど…、そうもいかない現状。
「あっつ…。冷房で乾かせば?じゃなかったら、脱いで干しておけばいいのに」
クレヤは言ってくれるが、冷房も却下だ。
風邪ひきそう。
「俺は顔だけはおまえの日陰になっていて、そこまで暑くない」
「おまえ、そういえば焼けてないよな。プールの授業も4回目なのに。白いし、顔も中性的だし、女のような男のような…。まぁ、美形っていうことは認めてやる」
「…あんまりうれしくないな、それ。俺は男だ」
「男と言われれば男のような気はするけど。毛深くないし、ヒゲもないし」
クレヤは私の顎にふれて撫でてくる。
イチも確かに毛深くないし、ヒゲもはえない。
顎を撫でる手は大きくて、放っておいたら、猫の顎の下を撫でるような手つきになって。
私は笑う。
「…イチが笑った…。かわいい顔して笑うんだな、おまえ」
めずらしそうに言われた。
言われてみれば、イチはいつも口を曲げているイメージだ。
笑うときは笑うけど。
私は閉じていた目を開ける。
クレヤは私を見ていて、変わらず顎を撫でていて。
その目を見つめ返すと、クレヤは手を止めた。
「…なぁ?変なこと言っていいか?」
「…女に見えたとか言うんだろ?」
「それもある。初めて会ったときから、かわいいとは思ってはいたけど。俺、おまえ相手ならゲイになれそうな気がした」
私は無言で体を捻って蹴りを入れる。
イチならそうするだろうから。
クレヤは笑って私の足を受け止め、私はイチにするようにクレヤに絡んでいって、その体を芝生に倒して。
腕を固めてしまおうとしたところで、それはできないことに気がつく。
…男に生まれたかった。本当に。
そうすれば、きっとなんにも問題なく、イチになりきれたのに。
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