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千明ちゃんをすすめられないのは、受け止めてはくれるから。
友達以上には思ってくれるから。
選んでもらえないなら、受け止めてくれなくていいと俺は思うから。
思っても…、深く傷ついていないのは、そのおかげのような気もする。
そうすると今度は諦めきれないものが残ったり、忘れられなくなったりと、感情なんてものは複雑で。
何が正しいとは言えないと思う。
同じ学校内に看護学科、救急救命学科もあって、俺はそのパンフレットをもらって家に帰る。
医療に何かしら従事した職を目指したいと思うのは、このボランティア精神からくるものなのか。
この1年で習った医学的なものを無駄にしたくもないと思うからなのか。
見た目はこれだけど、俺はけっこう真面目かと思われる。
家に帰りついて、その鍵を開け、扉を開けると、お帰りの声が聞こえてきた。
少し驚きながら顔をあげると、静華がいた。
「先にあがりこんじゃった」
静華は俺に昨日渡した合鍵を見せて言って、俺は少し照れる。
「ただいま。何か作ってた?」
「ご飯炊いただけ。作ろうかなって思っていたら、翼くんが帰ってきたの。肉じゃがと豚汁とおひたしだけど、嫌い?」
「和食好き。何か手伝う?」
俺は部屋の中にあがって鞄とパンフレットをおいて、静華が作ってくれるのを手伝う。
俺の家だけど。
同棲してるみたいだ。
消すことはなくても、新しいものが上に描かれていく。
描けるものが見つかれば、それは薄れていく。
飯を食べ終わると、静華の目は俺の持って帰ってきたパンフレットに止まった。
「見てもいい?」
興味あるって感じに聞かれて、断る理由もなく。
「いいよ。看護か救命かどっちに興味ある?」
「どっちもいいなぁ」
静華はパンフレットを開いて、俺は食器を片付けていく。
作ってくれたからと静華がいつもしてくれるし、今日はその逆で。
「…願書、もう間に合わないか。残念。来年受けてみようかな」
「俺もそのつもりだけど。来年には別れていたら、かなり気まずいことになりそうな…」
「なりそうだね。でもやりたいこと見つかったから、別れても受けるよ。翼くんと同じ学校でもいい。翼くんと同じ学科だと受験のライバルになっちゃうね?」
何か強い意思でも持ったらしい。
静華の言葉はまっすぐだ。
「蹴落としはナシでお願いします」
俺が言うと、静華は笑った。
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