258人が本棚に入れています
本棚に追加
篠原の気持ちが聞きたいと言ったのは俺ではある。
あるけど、なにか純情っぽいものを見せられて、些か不機嫌にもなる。
いや、それでいいと言えばいいけど、 おまえ、それ、俺に喧嘩売ってるのかと思うような。
静華が俺に見せてくれているように、篠原に犬みたいになつきまくれば、どんなに篠原が嫌だという態度を見せてもなつきまくれば…。
可能性ありまくりだろっ!
「今の篠原の気持ちは?」
俺は不機嫌になったまま聞いてやった。
「静華が幸せならそれでいい。俺は…傷つけてばかりだ。静華のことも…千明も」
「なぁ、千明ちゃんを選んだ理由は?」
「どっちかを選ばなければいけなかったから」
篠原は俺のほうを見て、当たり前のように答えた。
理由はない。
俺にはそう聞こえた。
それでも選んだ。
選ぶしかなかったから。
「……静華、かわいいのにな。従順でまっすぐで」
「だろ?突進かますくせに、引くとこ引いてくれる。…好きだった。俺は静華に捕獲された。今思えば、捕獲されたかった。…また捕まえられて首輪でもつけられれば、逃げることは俺にはできないだろうけど…、もう俺を捕まえようとも思わないんだろうな」
俺より静華をよくわかっているかのように篠原は言って。
「静華が篠原に戻ることはないって言ってる?」
聞いてみると、篠原はその目を一度伏せて、口元に笑みをのせた。
「静華ってわかりやすくないか?クリスマスのとき、おまえをかばっただろ?俺を止めるじゃなくて」
篠原はそれが静華の答えだとでも言うように言った。
篠原は静華に押されれば、また部屋をうさぎだらけにできるくらいのものはありそうだ。
千明ちゃんに一途を見せてはいるけど、千明ちゃんの篠原を見て思うものに合わせてみても、篠原の中では一生続く記憶。
塗り重ねることもなく、まったく別のもののようにおかれた記憶。
もっと月日がたてば、セピア色に色褪せそうな記憶。
俺はそれを踏まえて、静華とのつきあいを考えてみる。
…俺を篠原からかばうように抱いた、静華の腕。
好きだった。
篠原の声がやけに耳に残った。
最初のコメントを投稿しよう!