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夏休み近づくある日、イチは風邪をひいて寝込んだ。
私は学校に行こうと思って制服で、ベッドに伏せるイチを見下ろす。
これは…、もしかしなくてもチャンスというものなのでは?
にやりと笑うと、私は壁にかかっていたイチの制服に手をかける。
サイズはぴったりなはずだ。
「ナナ…?……おまっ、ちょっ、待てっ」
イチは気がついたらしい。
私を止めようとベッドから起きようとして、目が眩んだのか、そこでダウンした。
「本気、やめてくれ…。俺とナナじゃ声も違うってっ」
「イチ、そこまで声、低くないし、私が低めの声で話せば大丈夫。何か言われたら、喉の調子がおかしいってごまかす」
私はイチに答えながら、自分の制服を脱いでイチのカッターを着ようとして。
「ブラ線見えてるしっ。変態呼ばわりされちまうっ。頼むからやめてくれっ」
イチはそこまで言って、激しく咳き込み、私はしょうがなく、イチのタンスからTシャツを取り出して着て、その上にシャツを着る。
暑いけど、まぁ、そこは考えてやろう。
口は元気だけど病人だ。
スカートを脱いで、制服のズボンをはいて。
イチはシャツを出して制服を着ているから、その真似をして。
鏡の前でネクタイを軽く結んで出来上がり。
うん。我ながらそっくりだ。
文句のつけようがない。
私の制服をイチのタンスに隠しておく。
親には学校に行ってることにしておきたいし。
実際はイチの学校へいくのだけど。
「ナナっ」
ぜぇぜぇと息苦しそうにしながら、ベッドから抜け出したイチは私の腕を掴んできた。
まだ止める気らしい。
ここはおとなしく寝ていればいいものを。
私はイチの体をベッドの上へ投げる。
お布団をかけて、胸をぽんぽんと布団の上から叩いて。
「おとなしく寝てろ。親に言ったらあとで覚えてろよ?
……こんな感じだよね?イチの言葉遣い。声もさっきのトーンで。んじゃ、いってきまーす」
私はイチの真似をしてイチに声をかけ、イチの鞄を肩にかけて足早に家を出る。
もちろん、後ろからイチの止める声は聞こえていたけど。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
玄関でお父さんに会ったけど、特別何かを言われることもなく。
イチの自転車に乗って、私は朝の町をイチの学校へ向かって走り出す。
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