双子

6/13
前へ
/388ページ
次へ
どこかに何かヒントはないものか。 イチが学校について話しているのも聞いたことがないように思う。 席がわかっても、今度は友達の名前がわからないとなってしまいそう。 名前がわかっても、どう呼んでいるのかも謎だ。 イチめ、私にイチのふりをさせないように謀っていたか。 …なんて。 そんなことはないだろう。 イチのふりをして、私は教室の一番後ろの窓際の壁にもたれ、イチの席をどうやって見つけるか悩む。 一番に声をかけてくれた彼女に聞くことは、イチのふりをしている今じゃ難しい。 教室の中の誰かに声をかければいいのかわからない。 イチのふりをするのは、なかなか難しいものだ。 私なら誰にでも声をかけるし、クラスだけじゃなくて他のクラスの子とも仲良くしてるし。 誰に声をかけてもまちがってはいないけど。 …イチだもんなぁ…。 なんてうだうだ考えていると視線を感じて。 そっちを見ると固まっていた女の子たち3人が私を見ていて。 何も言ってもいないのに、慌てたようにその場から離れる。 …ある意味、イチだからわかりやすいところもあるかもしれない。 私は女の子たちが去った机の近くへ歩いていき、その机の中に見知ったイチの文字が見えると、その席に座る。 机の中にはイチの名前が書かれたノートなんかも置かれていて。 わかりやすい…。 私はノートを手にして思う。 イチのことだから、どうせ女の子を避けまくっているのだろう。 そして逆に女の子に気を使わせるくらいの態度を見せているのだろう。 鞄を机の横にかけて、私は机の上に俯せる。 ここからあとはイチの友達との会話がネックか。 名前、たぶん知らないし。 おまえとでも呼んでおけばまちがいはなさそうだけど。 昨日のこととか話されると困るかもしれない。 「イチ、おはよー」 私の背中を叩いて挨拶してきた男。 顔をあげてその男を見て、やはり名前がわからない。 中学の制服のように名札でもついていればいいのだけど、名札なんてものもない。 「オッス」 私はとりあえず挨拶してみた。 イチのノリで。 違和感は何もなかったらしい。 その男は何も言わずに私の前の席に座る。 白いカッターシャツの広い背中だ。 イチより体格がいい。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!

258人が本棚に入れています
本棚に追加