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しかし、まぁ、男が教室にいる風景なるものも、かなり久しぶりだ。
女子校ではないんだなぁと改めて思って、わくわくしてくる。
朝のHR。
誰に何かを言われることもなく、イチの日常が始まっていく。
もうすぐ期末テストなのか、授業は試験範囲と要点が中心だ。
どこの学校でも、だいたい同じことを学ぶものなのか。
別についていけないこともなく、当てられれば私は英文を読み上げ、解答をして。
休み時間には目の前の男の子に話しかけられ、何を考えることもなく、イチとして会話をする。
当たり前のようにイチに近寄ってくるのは男ばかりだ。
そんなに女の子アレルギーで、将来どうするのだろうと双子の片割れは少し心配にもなる。
ちなみに双子だけどイチのほうがお兄ちゃんとなる。
まったくもって、兄だの妹だのない双子だけど。
「あー、3限、体育か。なんでこの学校、プールの授業なんてあるんだか。どうせなら女子と合同授業にしてくれれば、少しはやる気出るのに」
イチの席の前の男の子はそんな情報をくれる。
プール…はまずい。
胸ないけど、イチの体とは明らかに私の体は違う。
顔は同じだけど、そこを見られるとバレる。
「俺、ちょっと熱っぽいから休む」
私はイチのふりをして会話に相槌のように入れる。
実際、イチは風邪をひいて熱を出して寝ているし。
夏風邪は馬鹿がひく…だったか?
3限目、私は彼に宣言したとおりに休み、けれど肩を抱かれて更衣室に連れ込まれる。
イチの着替えを見ているとは言っても、男くさい中で他人の着替えを見ているわけにもいかず、私は視線を逸らして。
「次、女子と合同だって」
そんな情報を誰かが仕入れてきて、男どもは喜ぶ。
何がそんなに喜ばしいのかはわからないけど、これはイチにとっては憂鬱だろう。
休んで正解だったんじゃないだろうか。
なんて思っていたら、私はいきなり背後から抱きつかれた。
「きゃっ!」
なんて思わず私の声で短い悲鳴をあげてしまって。
「きゃ?……イチ、似合うからやめて。おまえ、女でも通用しそうな顔なんだから。それよりも休んでよかったな。肌と肌がふれあう可能性もないし?」
私に抱きついたまま、その男の子は言って。
イチなら合同と決まった途端に逃げ出すだろうと思えた。
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