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この学校の指定水着が競泳パンツなら、逆に私が逃げ出しそうだ。
更衣室の中には、なかなか体格のいい男がそれなりにいらっしゃる。
私の肩に腕を回したままの、前の席の男の子もいい体だ。
…赤くなりそ。
「暑苦しいから離れろよ。俺は女じゃねぇ」
私は軽く男の子を振り払って、蹴る真似をして、男の子は笑う。
「そういやおまえ、双子の片割れ紹介しろよ。女子校なんだっけ?合コンとか組んでもらって」
私のこと?
少しは話してる?
イチなら…。
「なんでわざわざ紹介しなきゃならないんだよ?合コンなんてやってられるか」
私はイチとして答えて、それはまわりにもちゃんとイチとして映り、違和感もないらしい。
おもしろいくらいに騙されてくれる。
少しだけ、このイチの友達に悪いような気もしてきた。
更衣室を出て、私はその男とプールサイドへと向かう。
プールサイドには女の子もいて。
恥ずかしそうに身を寄せあっている姿が微笑ましい。
それにしても広いプールだ。
水面が日差しに反射して、きらきらして綺麗。
私が私のままなら、迷わずプールに飛び込む。
授業に出られなくて残念で仕方ない。
この高校を受ければよかったなとも思う。
男の会話、誰の胸が思ったより大きいとか、足は誰がいいとか、そんなことを耳に聞きながら、私には会話に入れそうにないと思う。
イチも女の子から目を背けるだろうから、別にかまわない。
私は視線を感じて。
そっちを見ると、水着の女の子たちが私を見ていて。
私と目があうと、慌てて逸らす。
…これは、こんなのでもイチはモテているということなのか。
そのうち授業は始まり、私は日陰で見学。
私の隣には同じように見学をしている女の子がいる。
他に見学者もなく、授業は授業でもなく、自由に遊べというものらしく、楽しそうでいいなぁと眺める。
はしゃぐ声や悲鳴や、舞い上がる水飛沫。
女の子も水着を恥ずかしがることもなくなって楽しそうだ。
イチなら…、それでも水にも浸かりたくないといったものを見せるかもしれない。
困った片割れだ。
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