双子

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授業をぼんやりと見学して、3、4限のプールは終了。 プールのあとの更衣室にはさすがに近寄りたくない。 私はこれでも女で、目のやり場に困ってしまう。 プールサイドを歩いて、座り込んで水にふれ、少しだけ水と戯れて、イチの友達が着替えて出てくるのを待つ。 もう昼休みで、プールの外は騒がしい。 太陽の陽射しは真上から私に降り注ぐ。 誰かの忘れ物らしきタオルを見つけて、それを手にしてみた。 柄がかわいいから女の子だろう。 どこに届けてあげればいいのか。 なんて思っていたら、プールの入り口から足音が聞こえて。 顔を上げてそっちを見ると、女の子が一人。 制服だけど髪が濡れている。 このタオルの持ち主かもしれない。 だけど…。 イチなら声はかけない。 …その前にタオルを手にすることもなさそうだ。 どうすればいいのか迷う。 「篠原くん、あの、それ…」 女の子のほうから声をかけてくれた。 私はタオルを女の子へ投げて渡そうとして。 タオルは突然吹いた強い風に舞い上がる。 女の子はタオルを追いかけて。 私はプールへ向かっていくその足を見て。 落ちるっ! 声もあげられず、慌てて女の子の腕を掴んで腰を抱き寄せた。 女の子の足は今にもプールに落ちそうになって、タオルはプールの水の上に浮かんで。 それでもなんとか女の子を水の中に落とす真似にならずに済んで、私はほっと溜め息をつく。 「……あ、ありがと…」 女の子は私に背を向けたまま、耳まで真っ赤にして言ってくれて。 そういえばこの子、教室やプールの授業の前によく目が合った、イチのことが好きらしい子だったと思い出す。 …何か非常に…まずい。 まずいけど…。 私は女の子をとりあえずプールサイドの安全なところへ引き戻して、プールの中に落ちてしまったタオルを眺める。 どうしよう…。 更衣室に水着のままのイチの友達でもいればいいけど、それは望みが薄すぎる。 自分の着ている制服を見て、真上から燦々と降り注ぐ日差しを見て。 私は溜め息をつくと、制服のままプールの中へ飛び込んだ。 女子校の王子。 女の子に悪いことをしておいて放っておけないのです。 イチはしない。 たぶん、何があっても、女の子のために自分を犠牲にはしないだろう。 …気まぐれっていうことにしておいてっ。
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