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「なにか?」
男は遠慮なく隊員に顔を近づける。
まるで、人をあざ笑うかのように、ニヤニヤしていた。
「兄ちゃん!ほっときいや」
渡部が二人の間に割って入った。
隊員は何も言わずに、その場を離れて炊き出しの準備を手伝った。
「そんなもん手伝う暇あるんやったら、早ように仮設でも建ててほしいわなぁ、あはは」
男は隊員に嫌みを言いながら、その場を立ち去って行った。
「ありがとな、気い悪うせんといてや」
渡部が隊員に気を使う。
「いぇ、大丈夫です。あんな常識のない人が居るんですね、纏めるの大変では?」
「まぁな、せやけどアイツは相手にしてませんから、あはは。気にしたもんが馬鹿見ますさかいに」
渡部の顔は笑っていなかった。
渡部が一番歯痒い気持ちでいっぱいだったからだ。
事ある毎に、嫌みな台詞を吐いては、人を不愉快にして、口を開けばボランティアにやらせろと言う。
配給される弁当に毎回いちゃもんつけては、避難所の空気を掻き乱す。
厄介者とは、正しくその男の事だと、誰しもが敬遠していた。
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